肝臓腫瘍2
掲載日:2024.01.17
先日、出血している内側左葉の巨大肝臓腫瘍摘出において、静脈空気塞栓症が生じたと考えられるワンちゃんに遭遇しました。備忘録の意味合いも含めて記載します。
巨大肝臓腫瘍の存在下、臨床徴候はほぼなかったものの、軽度血腹がありました。PCVも正常でした。
かなり巨大で肋骨弓にガッチリと収まっており、正中切開だけでは反転できず肝門部認識困難な状態でした。このため傍肋骨切開、横隔膜切開を加えてアプローチしました。
この時までは、出血はあるものの、程度も軽度と判断していました。その後、牽引・反転など操作を始めると突然のETCO2の低下から始まり、SPO2の低下、血圧の低下が認められました。肝臓からの出血もそれに呼応して酸素濃度の低そうな静脈血様の出血が増してきました。
一瞬にして100ml強の出血が起こったものの、内側左葉肝門部周囲の肝実質は肉眼的に正常であったため、急いで処理して血管を処理、結紮離断をして摘出しました。同時に行った昇圧と代用血漿の投与でバイタルはいずれも安定しました。止血も問題なく完了しました。
巨大腫瘍の牽引操作は、元々低い静脈圧を陰圧にしてしまい、空気が入り込んでしまう可能性があります。その空気が塞栓を起こし、心臓にかえれない静脈血が増え、これが急速な静脈血の出血となっていたと考えられました。空気塞栓症を早くから疑い、麻酔管理チームとの連携がうまくいき、早期解決に至りました。術後も問題なく、ワンちゃんも無事退院できました。
麻酔チームの存在だけでなく、術者側の考えも良かったと思います。
無理に操作せず、傍肋骨切開+横隔膜切開で開胸しておいたことで、術野が広がり、問題が起きたときに手早く外科操作ができたのだと考えられます。
「少しでもリスクがあるのであれば、しっかりとしたアプローチで手術する」、術野確保の大切さを改めて感じた一件でした。もちろん低侵襲で傷跡が小さいことに越したことはありませんが、このケースではそれを優先していたら、命を失っていたかもしれません。こうした判断は教科書で伝える、伝わるものでもありませんし、経験なのだと思います。肝臓腫瘍など、摘出に不安を感じる獣医師の先生方も、宜しければ相談いただければと思います。